ロシアとウクライナの正教会にある軋轢

全てはソ連崩壊から始まる。1991年8月24日にウクライナが独立を宣言すると、それまでロシア正教会ウクライナ支部という立ち位置だったウクライナ国内の正教会が、主教会議を経て独立しウクライナ正教会を発足させた。これに参加しなかった教会はモスクワの承認によって別のウクライナ正教会モスクワ総主教庁系)を発足させた。

ウクライナ正教会諸派と統合し、ウクライナ正教会キエフ総主教庁とした。

ウクライナ国内にはウクライナ正教会キエフ総主教庁ウクライナ正教会モスクワ総主教庁系)が併存することになった。しかし東方正教会は1国に1つの組織を基本としているため問題が起こる。

東方正教会ローマ・カトリック教会のように1人のトップがいるわけでなく、9人の総主教がそれぞれ対等独立として運営している。それゆえウクライナ正教会キエフ総主教庁を発足させても自称でしかない。

ここで話は一旦ウクライナから離れ、ロシアとコンスタンティノープルに移る。

東方正教会において対等独立とされ9つの総主教庁が存在する中でも、歴史的経緯から筆頭格とされるのがコンスタンティノープル総主教庁である。コンスタンティノープルとはかつての地名で、現在はイスタンブールと呼ばれている。

イスタンブールといえばトルコであるが、トルコ(オスマン帝国)はイスラム教の国である。それ故にコンスタンティノープル総主教庁は迫害を受け、実質的な力関係ではモスクワ総主教庁(ロシア)に劣る。

ここにロシアとコンスタンティノープルとの間に軋轢がある。

話はウクライナに戻る。ウクライナ正教会キエフ総主教庁は、ロシア正教会の影響下から離れ独立を目論んでいる。コンスタンティノープルと勢力争いをしているロシアからすれば見過ごせないのである。

2014年、ロシアはウクライナ南部のクリミアを併合した。この頃からウクライナの反ロシア機運が一気に上昇した。ウクライナ正教会もロシアの影響下からの完全な決別を決心したのだろう。

そして2018年10月11日、コンスタンティノープル総主教庁ウクライナ正教会キエフ総主教庁諸派教会の承認を発表した。これを受けて10月15日、ロシア正教会コンスタンティノープル総主教庁との断絶を発表した。

2018年12月15日、ウクライナ正教会キエフ総主教庁は国内の諸派と統合して新生ウクライナ正教会が発足した。翌年1月5日、コンスタンティノープル総主教庁より独立正教会の地位を認めるトモスが署名され、翌日付けで正式に独立が認められた。

これまで自称にすぎなかったウクライナ正教会が、正式に認められたのである。

ロシア(モスクワ総主教庁)とコンスタンティノープル総主教庁の軋轢に加え、モスクワ総主教庁ウクライナ正教会の軋轢が顕在化した瞬間である。