なぜ硫化水素が危険なのか

ウクライナのアゾフスタリ製鉄所で硫化水素が流出していると報道されている。見るからに毒々しい色をしているが、硫化水素はなぜ危険なのか。

硫化水素の化学式は\rm{H_{2}S}である。硫黄原子1個に水素原子2個の構造となっている。温泉などで腐卵臭と呼ばれる原因物質が硫化水素だ。水溶液中では次のように電離している。

\rm{H_{2}S ⇄ HS^{-} + H^{+}}

このとき\rm{pK_{a}=6.89}であり、弱酸性を示す。

さて、この硫化水素\rm{H_{2}S}であるが、もっと身近な物質で化学式が似ているものがあるのだが思いつくだろうか。そう、水\rm{H_{2}O}だ。

硫黄原子と酸素原子が違うだけで、水素原子2個を抱えている構造は同じである。しかし似ているのは構造だけではなく、硫黄原子と酸素原子が似ているのだ。

 \rm{硫黄 [\mathrm {Ne}] 3s^{2} 3p^{4}}
 \rm{酸素 [\mathrm {He}] 2s^{2} 2p^{4}}

これは各原子の電子配置を示したものであるが、どちらもエネルギー準位の最も高い部分の電子配置がs軌道に2個とp軌道に4個なのが同じなのだ。

つまり硫化水素と水は似たもの同士であるため、体内に入った時に取り込みやすいと考えられる。しかしながら水と違って硫黄原子を含む毒性の強い物質である。