佐高信 著, 官房長官菅義偉の陰謀, 河出書房新社, 2019

菅義偉前総理の人物について知ろうと、この本を手に取った。結論から言うと、本書に菅義偉氏のことについて書かれている分量は10%にも満たず、何も得られなかった。

著者の特徴は3つある。ひとつめが浅い観察力だ。菅氏に対する批判をしようとしているが、菅氏のことを直接書き連ねるわけではない。例えば関係の深い安倍晋三氏を批判し、そのお友達だからという論理で菅氏を批判するのだ。

加えて安倍晋三氏や他の人を悪いと言う時も、「(安倍氏が悪いのは)火を見るより明らかだ~」とか、「既に馬脚を現している~」といった強い言葉を連ねるのみで、何が悪いのかを書かない。最後までわからず仕舞いだ。

ふたつめの特徴が、オヤジギャグ的な捩りだ。希望の党を絶望の党と言い換えたり、麻生太郎を阿呆太郎と言い換えたり。河野外相を害相と言い換えたり、品性を感じられない。

立憲民主党の名付け親であると自ら書いていたが、妙に納得してしまった。命名の理由も、憲法9条を変えようとする安倍氏に対抗するためだという。9条を変えても変えなくても日本国にとって立憲主義は不変ではないのか。

みっつめの特徴が、謎掛け的な言葉遊びに終始していることだ。例えば自衛隊を批判しようとする。このとき、まず別の話題から始め、同じ考え方で本題を批判する。

近年は通り魔のような外で起きる事件より、親族や家庭といった内の事件が増えている。自衛隊も同様で、内である国民を苦しめている。

といった具合だ。何が同様なのか分からない。普段からどのように批判しようかと思考を巡らせているので、何か自分が理解できる話を聞くと短絡的に結びつけようとしていないだろうか。

本書は菅氏の陰謀を暴く本らしいが、陰謀話も暴露話も書かれていない。唯一読める部分があるとすれば、かつて菅氏はAと言っていたが、今はBをやっているという言行不一致の指摘だろう。

しかしながら私が考える限り、政治家は情勢に合わせて柔軟に対応しなくてはならない。2021年までならばロシアとの友好外交も理解できたが、2022年の今ではあり得ないのと同様である。

最後に、前川喜平氏をやたら称賛しているのが印象的だった。