アジ化ナトリウムの分解反応

製薬会社「第一三共」の研究施設から、アジ化ナトリウムの入った容器が行方不明であるとの報道がなされている。高校化学でp-ヒドロキシアゾベンゼンを習うが、アゾとアジは少し違う。

アジ化ナトリウムは示性式 \rm{NaN_{3}} で表される、常温で固体の物質だ。亜硝酸ナトリウムヒドラジンを反応させて生成される。

\rm{NaNO_{2} + N_{2}H_{4} → NaN_{3} + 2H_{2}O}

アジ化ナトリウム \rm{NaN_{3}} は一見して不安定そうな構成であることが分かるが、融点548K付近で次のように分解する。

\rm{2NaN_{3} → 2Na + 3N_{2}}

この時、各物質の標準モル生成エンタルピー\rm{Δ_{f}H^{°}(kJ・mol^{-1})}は、

\rm{NaN_{3} = 21.71 kJ・mol^{-1}}
\rm{Na(cs) = 0 kJ・mol^{-1}}
\rm{N_{2}(gs) = 0 kJ・mol^{-1}}

したがって反応に伴うエンタルピー変化 \rm{Δ_{r}H} は、

\rm{Δ_{r}H = 2・Δ_{f}H^{°}(Na) + 3・Δ_{f}H^{°}(N_{2}) - Δ_{f}H^{°}(NaN_{3})}
\rm{Δ_{r}H = -21.71kJ}

したがって \rm{ΔH < 0} であるこということは発熱反応であり、生成物は反応物よりも安定だと分かる。