政子は毒を盛っていない

昨日の続き。

問題の北条政子である。直接的に毒を盛ったわけではなく、助かる可能性を奪っただけだからだ。考えられる罪はふたつ、遺棄致死罪と殺人罪だ。

まずは遺棄致死罪となるか検討する。最後のシーンでは衰弱し苦しんでいる義時を放置し、直後に死亡している。遺棄罪とは、義時のように疾病で苦しんでいる者を放置する罪だ。それによって死亡という結果をもたらした場合は結果的加重犯となって遺棄致死罪にランクアップする。

政子は故意に解毒薬を与えず放置していることから、遺棄の事実は認められる。

次に殺人罪を検討する。義時を殺害する故意を以て解毒薬を叩き割り、更には拭き取る行為をしている。重要なのは故意があるかどうかだ。政子は直前に次のような発言をしている。私たちは長く生きすぎた、もうよいのではないか。

この発言は死亡してもよいと考えていることの証拠だ。厳密には未必の故意となるだろうか。よって殺害の故意が認められると殺人罪が成立することになる。

遺棄致死罪と殺人罪を比較した時、殺害の故意があると認められるならば、同時に遺棄の故意は成立しない。殺人罪が優先されることになる。

だがどうだろう、義時の死因は毒である。政子は毒を盛っていない。

政子が殺人罪となるのは、助けるべきを助けなかったことで死亡という結果を生じさせてしまった場合だ。不作為による殺害、つまり不真正不作為犯の殺人罪が成立するかどうかだ。

不真正不作為犯の説明では、川で溺れている者を助けずに溺死させてしまう例が挙げられる。だが川の近くにいる者は多く、また泳げないなどの理由で助けられない者もいるはずだ。全員に殺人罪が成立してしまうのか? という問題だ。

答えとしては当てはまらない。例えば溺れている者が子供で、その保護者のような助けるべき義務を負っている者であるかどうかが重要だ。また見知らぬ者でも指名されれば義務が生じる。

政子の場合はどうか。姉弟という間柄だが義務を負うような関係ではない。しかしドラマでは姉上に解毒薬を取ってもらうようお願いしている。指名されているのだ。よって政子は義務者だと考えられる。

義務者の政子が死亡という結果を十分に予見できる状況で故意に解毒薬を廃棄した。よって義時は死亡してしまった。不真正不作為犯の殺人罪が成立すると考えられる。