岡田の失ったもの

AKB48岡田奈々が俳優との熱愛を報じられ、その後グループからの卒業を発表した。これに対し総監督を務める向井地美音が、曖昧だった恋愛禁止ルールについて考え直す時が来たと言い、運営と相談することを宣言。しかし運営からは、そのようなルールは無くメンバーの自覚によって成り立っていると回答した。

まず岡田だが、自身が過去に風紀委員長を自認する発言をしていた経緯がある。発言の主旨から自身やメンバーにAKB48としての自覚を促すもので、実質的に恋愛禁止ルールの徹底を指すものと解釈できた。

次に向井地だが、総監督として問題に向き合う姿勢は評価されるべきことだろう。しかし恋愛禁止ルールというのはAKBグループが疑似恋愛をウリに活動するための方便であり、グループのアイデンティティを毀損させる安易な発言であったと言わざるをえない。

さて、岡田の恋愛についてだが、契約や法律といった観点からは全く問題ない。個人の自由で誰からも制限されることはない。アイドル活動を継続することとも無関係だ。

アイドル活動の定義があるわけではないが、ファンに対して楽しい気分や勇気を与える職業だろう。ファンの心に思いを届け揺さぶるという点では、アリストテレスの弁論術にも通じる。

自らの過去の発言と矛盾する行動によってロゴスを失い、恋愛禁止ルールを徹底してくれると思っていたファンの信頼を裏切ることになってエトスを失い、よって何を言ってもファンには届かなくなってしまいパトスを失った。

岡田は何の悪いことをしたわけではないが、アイドルという職業の根幹を失ってしまったのだ。どんなパフォーマンスをしても、どんなことを言っても、ファンには届かなくなってしまった。

ただ、これはAKBグループだからこその問題である。他のグループ、例えばももクロのやでんぱ組のメンバーは結婚を発表している。それは疑似恋愛をウリにしていないからだ。